静岡・島田で開催された「第23回全国地紅茶サミット」と「地紅茶学会」の記録
2026年2月14日、お茶の街として知られる静岡県島田市にて、第23回全国地紅茶サミット IN 島田、および令和7年度 地紅茶学会研究発表会が開催されました。
現在、日本国内で生産されるお茶のうち、紅茶が占める割合はわずか0.1%に過ぎないと言われています。
この極めて希少な「和紅茶」の今を一堂に会して体験できるのが、このサミットの最大の魅力です。日々、画面越しに情報を処理する私たちにとって、現地で土の香りや作り手の熱量に触れる体験は、単なる知識の習得を超えた「心の再起動」となります。
本記事では、一人の紅茶愛好家の視点から、この2つのイベントで得られた知見と、これからの和紅茶が持つ可能性について深く掘り下げていきます。
志戸呂焼マイカップが変える、試飲体験の質と快適さ
今回のサミットで私が最も重視したのは、試飲という「体験の質」をどう高めるかでした。
そこで選択したのが、志戸呂焼のティーカップ付き入場チケットです。
以前、入間で開催された和紅茶イベントに参加した際、提供される小さな試飲用カップをずっと持ち歩くことの不便さを実感しました。
今回、専用のマイカップを手にしたことで、その悩みは鮮やかに解消されました。
取手付きカップと「首かけスタイル」の実用性
志戸呂焼のカップは、手のひらに収まるサイズ感ながら、しっかりとした取手が付いています。
- 注いでもらう際の安心感: ティーイベントの試飲は少量ですが、取手があることで、熱いお茶を注いでもらう際も指先にかかる心配がありません。
- 両手を自由にする工夫: 会場内では試飲、購入、パンフレットの確認と、両手を使う場面が多々あります。
写真のように首から下げる紐を用意したことで、カップが邪魔にならず、心ゆくまで茶葉を手に取ることができました。
リアルな体験から得た「小さな注意点」
もちろん、完璧な道具にも気をつけるべき点はあります。
- 衣類への配慮: カップの底に残ったわずかな茶液が、移動中に服に付着してしまうことがあります。特に白い服での参加はリスクが高いため、避けたほうが無難です。
- 拭き取りの所作: 飲んだ後にティッシュでさっとカップ内を拭う。
このひと手間を惜しまないことが、最後まで美しく試飲を楽しむコツであることを学びました。
紅茶イベント以外での使い道は限定的かもしれませんが、「自分専用の道具」を持つことで、一杯のお茶に向き合う姿勢がより深まることを実感しました。
品種研究から紐解く、和紅茶が秘める「世界基準」のポテンシャル
今回の旅で最も知的好奇心を刺激されたのは、ティーマーケットジークレフの川崎武志氏による品種研究セミナーでした。
系統図が教える「ダージリンとの意外な共通点」
私たちはつい「ダージリンは別格」と考えがちですが、そのルーツを辿ると和紅茶との意外な接点が見えてきます。
- 混ざり合う品種: ダージリンは中国種にアッサム種が交配されて今の風味がありますが、和紅茶も同様に、アッサム種と中国種の交配を経て進化を続けています。
- 「カンボジア種」という発見: 紅茶の品種が派生していく流れの中で「カンボジア種」という存在を知りました。こうした学術的な背景を知ることで、ただ「美味しい」と感じていた味わいに、歴史という厚みが加わります。
和紅茶の未来と「渋みの美学」
和紅茶のポテンシャルは、今後世界の紅茶市場の勢力図を塗り替える可能性を秘めています。
- 市場の空白を埋める存在: ダージリンの価格が高騰を続ける中、その「隣の席」に座るべきは、繊細な香りを追求してきた和紅茶かもしれません。
- 水質との関係: 硬水地域では繊細な香りが失われやすいため、フレーバードティーなどの展開が有効ですが、日本の軟水で淹れる和紅茶は、そのポテンシャルを最大限に発揮します。
- 渋みをコントロールする楽しみ: 紅茶の美味しさは、甘味・酸味に、苦味や渋みがアクセントとして加わることで生まれます。誰かの評価ではなく、個人の味覚に合わせて「自分にとって心地よい渋み」をコントロールして淹れることこそ、お茶を愉しむ醍醐味です。
地紅茶学会で学ぶ、150年の歴史と0.1%の重み

併催された令和7年度 地紅茶学会研究発表会では、より専門的で多角的な視点から和紅茶を捉え直すことができました 。
国産紅茶150年の歩みと方向性
武田善行氏(農学博士)による基調講演「世界に翻弄された国産紅茶150年の歴史と今後の方向性」は、和紅茶の過去と未来を繋ぐ非常に重厚な内容でした 。
- 歴史の重み: 明治以降、輸出産業の主役として、あるいは輸入の荒波に揉まれてきた国産紅茶の歩みを知ることで、目の前の一杯に含まれる時間の重みを感じました。
- 科学的根拠: 静岡大学の森田明雄教授による香気成分の研究発表では、感覚的な「香り」を科学の視点から紐解く面白さに触れました 。
学会という「生きた情報」の場
日頃、AIを使って情報を集めていると、知りたいことへの最短距離は確かにAIの方が早いかもしれません。しかし、学会という場所は「全く違う視点」を与えてくれます。
- 多様な分野の交差点: 静岡県産茶葉を使用した「赤毛のアン・ティー」の商品企画 、大学生による都市農村交流の実践 、そして国産紅茶産業の発展に向けた提言 。
- 繁栄を感じる喜び: 統計的にはわずか0.1%という希少な存在ですが、これほどまでに多くの人々が情熱を持って研究と振興に励んでいる。そのプロセスを共に体験できること自体が、和紅茶ファンの喜びだと感じました 。
職人の魂が宿る、至高の茶葉コレクション

会場を巡り、作り手の方々と直接対話し、納得して選び抜いた「再起動」のための茶葉たちです。
吉田茶園:izumi 2nd flash
「いずみ」という希少品種のポテンシャルを最大限に引き出した逸品。気品ある香りは、一日の終わりの静かな時間によく合います。

カネロク茶園:燻製紅茶(柚子・国産ウィスキーチップ)
ウィスキーチップの重厚な香りは、紅茶の概念を覆すほどの衝撃でした。唯一無二の個性が、思考を日常から切り離してくれます。

香輝園:つゆひかり
まだオンラインには出回っていない、イベントならではの出会いとなった新種。こうした発見こそ、足を運ぶ醍醐味です。

マルヒ製茶:そうふう
青い風が吹き抜けるような、爽やかで奥行きのある香り。気分を切り替えたい午後に最適な一杯です。

島田の風土を飲み比べる。プレミアム・アソートの魅力
さらに、島田という土地の豊かさを多角的に楽しめるアソートセットも購入しました。
- 島田プレミアム和紅茶アソートセット(金谷金紅茶、まるたま2024、ももかプレミアム、霧暁の一茶、初倉美人2nd2024)
これらは、島田の生産者たちが切磋琢磨して作り上げた、まさに「地域のプライド」が詰まったセットです。同じ島田という土地であっても、品種や製法の違いによって、ここまで味わいの表情が変わるのかという驚きがあります。一つひとつを丁寧に飲み比べる時間は、自分自身の味覚を研ぎ澄ませる贅沢なレッスンとなりました。
次回は狭山で。和紅茶の繁栄を共に体験する一歩
全国地紅茶サミットは、普段の生活では決して出会えない、その土地その茶園にしかない「一期一会」の紅茶たちが集まる場所です。単に知識を増やすのではなく、自分の味覚と向き合い、自分だけの「心地よさ」を見つける場所でもあります。
次回の開催も既に決定しています。
第24回全国地紅茶サミット IN 狭山
日程:2027年1月30日(土)・1月31日(日)
公式Instagram情報はこちら
和紅茶という、まだ0.1%しか存在しない未完成の文化。その繁栄のプロセスを、飲み手として一緒に体験してみませんか。まずは今日、気になる一袋を手に取り、自分に合った「渋みのコントロール」で淹れてみること。
その香りが立ち上った瞬間、あなたの忙しい日常に、静かな再起動の時間が訪れます。



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